歴史教科書問題 (2001.08.26)

 小泉総理の靖国神社参拝は終戦記念日を避けるという姑息な方法を取ったが、当然のように韓国は反発をして教科書問題は収まりそうにもない。一方で"つくる会"教科書は採択する学校が殆ど無い状態で、教科書採択活動を終えている。書店ではベストセラーでも実際の現場で使われるのはごく少数なのである。しかしいったい何が問題だったのかと考えてみると、実に色々と論点が浮き上がってくる気がする。日本史には疎い身であるが、ここで一度整理しておきたいと思う。

1.検定と「表現の自由」

 先ず教科書検定とは何なのかということだが、基本的人権として思想・言論・表現の自由が保証されている日本にあってはそもそも必要のない制度であると思う。田中外相が「事実をねじ曲げていることを承知の上でつくった教科書を合格とするような検定制度は問題だ」と発言していたが全くその通りであり、検定制度が初めて存在価値を持つチャンスを自ら潰したのである。存在価値を持てなかった制度である以上教科書検定は廃止し、検定官といった無駄な公務員を早々にリストラすることで財政赤字削減に寄与すべきである。

 思想・言論・表現の自由が保証されている国である以上、複数の教科書が存在し且つ自由に選択が可能なのは当然であろう。寧ろ韓国のように教科書が一つしか存在しない国が異常である。家永教科書も"つくる会"教科書も存在して良いが、選定するのは学校側・学ぶ側の自由とすべきであろう。知事が軍国主義者だからと言って養護学校に偏向教科書を押し付けるような選定方法はけっして許されるべきではないと考える。

2."つくる会"教科書の問題

 さて1.では「表現の自由」があると書いたが、そもそも歴史認識に対する意見があるのであれば、それは教科書と言った媒体ではなく一般の歴史書内で主張すべきである。思想として右も左も有って構わないが、中・高校生が学習で使う教科書であれば、より普遍的な史実を客観的に記述して編纂すべきである。その意味では"つくる会"教科書はかなり問題である。しかし"つくる会"教科書の何処が具体的に問題であるのかはここでは触れない。もし興味の有る方は岩波書店から「歴史教科書 何が問題か」坂本義和他編といった本も出ているので参考にして欲しい。

3.戦争責任の認識

 小泉総理の靖国神社参拝問題で火の付いた「戦争責任」に対する反省問題であるが、既に戦後56年を経過しているのである。戦後生まれの私としては、既に加害者・被害者とも当事者が少なくなってきた今になって、これ程騒ぎ立てるのは良いことではないと考えている。逆に言うと過去の日本の政権者達が被害を受けたアジア諸国に十分な謝罪の意を表明して来なかったことが問題だった訳だが、好い加減にケリを付けて欲しいと思わざるを得ない。

 例えば湾岸戦争からはまだ十年ほどしか経過していないが、クェートがイラクに真摯な謝罪を要求し、それに対してフセイン政権が謝罪を行なったなどという話は聞かない。更に数十年経過してフセイン政権に代わる民主政権が成立していたと仮定して、その新政権の謝罪にどれほどの意味があるのだろうか? 謝罪すべきはフセイン政権であり、その後に成立した民主政権ではないのである。もしこうした論法を韓国が日本に対しては認められないと言うとすれば、その理由は日王(韓国では日本の天皇をこう呼称している)の継続にあると言うのだろう。つまり韓国からすれば日本の戦前の軍国主義政権も現在の政権も変わらないのである。  

4.日本の教科書と韓国・中国の教科書

 さて一国の教科書の問題を他国が批判するのは内政干渉との意見もあろう。そうした意見を別に、過去の歴史的経緯から批判する権利が仮に有ったとしても、批判する側の国々の教科書はどうなのかと考えさせられる。ヨーロッパに教科書問題が有るのか知らないが、例えばある国がドイツの教科書を批判したとして、ではその国の教科書はドイツの批判に耐える立派な教科書なのだろうか? 歴史というのは立つ立場によって180度見方が異なるものであり、普遍的史実を客観的に著述した教科書などというのは所詮有り得ないのではないかという気もする。

 韓国や中国の教科書がどういったものなのか知る機会は殆どないが、「韓国・中国「歴史教科書」を徹底批判する」といった本(小学館文庫・勝岡寛次著)も出版されている。この本自身問題の多い本という気もするが他に情報源もないので参考にして書く。

 先ず韓国には国定教科書一冊しかなく、他の教科書を選ぶことすら出来ない。共産国中国も同様であり、言論の自由の保証すら怪しいのである。両国教科書の問題点詳細については前述の本を参考にして欲しいが、例えば日本が初めて他国の侵略を受けた元寇では、中国の教科書には一行も書かれていない。元が蒙古民族を筆頭とする政権であったことは事実であるが、今の中国の一時期で有ったことは確かであり、自国の侵略行為を明記しないのはご都合主義もいいところである。韓国の教科書はこの元寇について触れてはいるが歴史的事実を歪曲している。元寇は高麗の忠烈王が元の世祖に進言して実現したものとされている(私もそれが史実と信じている)のに対し、韓国は元が高麗に強要したものと責任転嫁して教科書に記述している。多くの高麗軍が参加した元寇は朝鮮(現韓国・北朝鮮)が日本に対して行なった侵略戦争であり、その後の日本に朝鮮に対する不信感を植え付ける根源となった事件である。

 この元寇以外でも問題となる箇所は数多くあるようだが、所詮見る立場が異なればそうならざるを得ないのが歴史というものでもある。韓国・中国がそうした問題点を修正する気は当然無いのであろう。であれば韓国・中国も日本の教科書に修正要求する権利は担保されないと思う。右寄りの教科書も有れば、左寄りの教科書もある、そうした教科書の選択が可能な日本の方が余程自然な姿であると私は考える。

前ページに戻る---> RETURN