自民、公明両党と立憲民主党が年金制度改革法案の修正で合意し、近く衆院を通過する見通しになった。成立を目指して短期間でまとめた点は評価したいが、肝心の内容は踏み込みが甘い。

焦点だった基礎年金の目減り問題への対策は、厚生年金の積立金を活用する案を法案の付則に明記する。この案はもともと厚生労働省が提案したが、夏の参院選への影響を懸念した自民党議員から慎重論が出て、法案提出前に政府案から削除された経緯がある。

立民は基礎年金の底上げ対策が盛り込まれていない政府案を「あんこの入っていないあんぱんだ」と批判。修正協議では自公が立民の主張を受け入れ、厚労省案を復活させることになった。

法案提出が遅れた結果、残された審議時間は1カ月に満たない。与野党は修正案を土台に議論を深め、会期内の成立を目指して国会審議に臨んでほしい。

修正案には課題も多い。まず基礎年金底上げの実施時期だ。厚生年金の積立金を活用する仕組みを付則に書くだけで、実行するかどうかは2029年の財政検証をみて判断する内容になっている。

29年以降に年率3%前後の賃金上昇が毎年続く成長型経済に移行できるなら、現行制度のままでも基礎年金の目減りはかなり抑えられる。判断先送りはこの可能性を見極めるためだという。

ただ楽観的なシナリオに頼って改革を先送りするのは危険だ。年金制度は政府が目指す将来像ではなく、慎重な前提に基づく設計が要る。立民も基礎年金の対策が今改革の「あんこ」だというなら、法案の本則に規定し、すみやかな実施を目指すべきだ。

厚生年金の対象者を広げる改革案の中身は変わっていない。従業員50人以下の企業で働くパートタイム労働者にも適用する規定を盛ったものの、完全施行は35年10月とかなり先になる。企業にある程度の準備期間は必要だが、さすがに長すぎるのではないか。

飲食店や宿泊業、農漁業などの個人事業所（5人以上）に厚生年金の適用を広げる案も、対象が新設事業所に限定される。既存事業所については期限を定めずに適用を先送りする内容のままだ。

3党の合意で基礎年金対策が前進する法案になったのは良かったが、修正後の内容にも課題はかなり残っている。与野党はしっかり審議してほしい。