やっと安倍政権が終る事になったが、余りにも遅く、無駄に長い政権だったと言わざるを得ない。この「政官界を斬る」では2018年以降3回も安倍内閣総辞職を求めて来た。はっきり言えば一度目森友文書改竄問題で早々に辞任しておくべき宰相だった。その後二年余も無駄な時を費やされた国民の失ったものは大きい。
第二次政権だけで7年8か月とかっての佐藤栄作政権を越えた。佐藤政権は高度成長と共に少なくとも沖縄返還を成し遂げたが、安倍政権は集団的自衛権の解釈変更や特定秘密保護法、共謀罪等負の遺産は数多いが、レガシーと言える実績は皆無だ。憲法改正は改正発議もないどころか、米国従属でトランプのポチを演じていた。それどころか、彼が最も重視していた筈の経済・アベノミクスで大きな負債を残したと言って良いだろう。
実質賃金指数は2012年の104.5から2019年の99.9へと4.4%下がった。企業の内部留保は2012年の250兆円が2018年に450兆円と200兆円も増えているので、消費増税の裏で法人税減税して増えた企業利益は労働者には回らず企業だけ潤ったという事になる。労働者側は実質賃金が下がったのだから、当然消費活動も縮小するしかないが、消費税が5%から10%になった分だけでも、かなりの打撃になっている。雇用は増えたが、増えたのは非正規雇用で有り、結局それが実質賃金低下へ繋がっている。
アベノミクスとは(1)大胆な金融緩和、(2)機動的な財政出動、(3)民間投資を喚起する成長戦略 といったものだったが、成長戦略など皆無だったと言って良い。例えば脱原発をする事なく原発継続に拘り、世界の潮流からは全く逸脱してしまった。残ったのは出口なき金融緩和であり、日銀の532兆円の国債購入、ETF34兆円の購入は、どのように手仕舞い出来るのか全く展望はない。株価は約2倍に上がったが、日銀、GPIFによる官製相場で価格を維持する事で、株式市場は実質的に死んでいる。それでいて2年で2%のはずだった物価上昇目標は7年を越えた今も達成されていない。
外交の安倍とも言っていたが、実績は皆無だ。プーチン大統領との良好な関係の元、四島を二島に下げて北方領土問題を交渉していたが、経済協力と貢いだ挙句何らの成果もない。拉致問題もただの一度北朝鮮との首脳交渉はしなかった。米国のトランプ大統領とは仲が良かったが、結果として高い兵器を言い値で買わされる事になった。中国との関係では尖閣に公務員常駐などが公約だったはずだが、そのような事もする事なく、連日中国公船に領海侵犯される醜態ぶりだ。
日韓関係では2015年に慰安婦合意を結んだ。しかしソウルの大使館そばの慰安婦像の撤去すら合意には盛り込まず、よって当然撤去されないどころか、釜山の領事館そばにまで設置される始末だ。韓国が文政権になると慰安婦財団は解散され、実質的に合意破棄された。徴用工問題では早ければ年内にも日本企業の資産が現金化される瀬戸際にあり、安倍政権の不甲斐ない対応によって、最悪の状態に落ち込んでいる。
政治モラルを破壊した責任も大きい。国会の場で平気で嘘をつく。官僚に虚偽答弁をさせる。あるはずの文書はシュレッダーで捨て、公文書は改竄する。統計は都合の良いように直して、GDPが上昇しているかのように装う。しかも忖度し不正を行なった官僚はポストで優遇する。誰が後継首相になってもモリカケサクラの闇は徹底的に究明して欲しい。特に原点でもある森友問題について、誰の指示でなぜ8億円も値引かれたのかは重要な論点だ。安倍昭恵夫人、佐川元理財局長、迫田元理財局長、谷査恵子氏の証人喚問は解明に絶対必要だと考える。
会見と言いながら官僚が書いた原稿をプロンプターで丸読みし、事前に記者クラブと調整した記者にだけサクラのような質問をさせ、それ以外の質問に対しては次の予定が有ると言って逃げる姿は見苦しかった。米国のトランプ大統領がブリーフィング後に記者とやっている問答に比べるとその差は歴然だった。これは安倍首相側の責任も有るが、首相と会食を共にし、それでいて追及をしないメディア側の責任が大きい。
今や上級国家公務員職の人気は奈落の底だ。政権に忖度して虚偽答弁するような官僚にはなりたくないと若い学生が思うのは当然だろう。同様にテレビ局の就職人気も下がっている。NHKにいた相澤記者は森友問題の取材で結果として左遷され、NHKを辞めた。自由に取材の出来ないメディアの就職人気が下がった事の責任も、安倍晋三が負うべきものだ。
新型コロナの対応も酷かった。中国に抜かれたとはいえGDP世界第三位の国がなぜ人口当りのPCR検査数が世界150位にいなければならないのか、とうとう安倍氏は何らの説明もしなかった。それどころか根拠なく全国一斉休校を行ない、誰も使いたがらない布製マスクを配る。6月18日に国会を閉じて後は完全無策だ。世間が新型コロナ終息以前のGoToトラベキャンペーンに反対しても強行実施して地方への感染拡大だ。
知事会や東京都医師会会長から緊急措置法の改正を求められても国会は開催せず、閉会中審議に出席する事もなく辞任だ。へたに国会を開いてモリカケサクラの追及を受けるのがいやだったのだろうと思わざるを得ない。特に桜を見る会については、前夜祭について刑事告発をされたままだ。検察は速やかに捜査し、次期首相指名の臨時国会閉会後、安倍氏を無許諾で逮捕したらどうだろうか? 前夜祭を格安の5000円で後援会の支持者に提供したのは公職選挙法違反の買収だろう。いやホテルが特別に割り引いたというのであれば、その部分は利益供与収賄だ。どちらにしても犯罪である可能性は極めて高く、徹底的な捜査が必要だ。
アベノミクスの失敗に新型コロナが重なり、2025年度のプライマリーバランス黒字化は実質的に消え2029年度だという。その新しい目標ですら、経済見通しが甘く、実現困難と見られている。既に辞任して行く安倍政権に新しい財戦再建ビジョンを求められないのであれば次期政権発足後早々に、新ビジョンを示してもらうしかない。経済政策で失敗した自民党に、増税と緊縮財政以外にどうやって財政再建が可能なのか全く闇の中だ。誰が後継首相になろうとも、安倍晋三が残した大きな負の遺産は余りにも大きいと言わざるを得ない。
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